・文科省が旧統一教会の解散命令請求を決定
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文科省が旧統一教会の解散命令を裁判所に請求すると決定、東京地裁に今日、請求しました。
裁判所の判断は予断を許さず、解散命令が出ても確定までは教団が従来通りに活動できること、教団の財産保全の必要があること、自民党等との関係で未解明な面もあること等の課題が指摘されていますが、被害者弁護団は今回の決定を高く評価しています。
「政府は12日、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を13日にも東京地裁に請求することを決めた。かねて問題視されていた高額寄付を教団による組織的な違法行為と結論付けた。刑事事件を起こしていない宗教法人の解散が司法の場で審理されるのは初めて。教団側は全面的に争う姿勢で、結論までは長期化が予想される。」
旧統一教会解散命令、13日にも請求 文科相「損害甚大」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
宗教法人法は、81条で、裁判所は、宗教法人について、一定の要件を満たすときは、所轄庁つまり文部科学省の請求により、その解散を命ずることができるとしています。要件としては、この条文の1項1号に、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」、2号に、「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」を挙げています。
宗教法人法 | e-Gov法令検索
更に、政府はこの条文の解釈として、継続性、悪質性、組織性の3要件が必要だとしています。更に、この3要件に該当するか否かについて、従来は刑法上の違法性を問題としていたものの、民法上の不法行為でも満たしうるという新たな解釈を昨年、岸田総理自身が国会で示しました。
政府のこうした解釈を旧統一教会は批判し、同教会以外にも異論はありますが、政府の判断としては、民法上の不法行為について、継続性、悪質性、組織性の3要件に該当すれば階差命令を請求できる、ということになります。盛山文科大臣は昨日、宗教法人法で定められた審議会の意見聴取の手続きを経たうえで、上記の宗教法人法81条1項1号と2号に該当するとして、旧統一教会の解散命令請求を決定したと記者会見で述べました。
盛山大臣は旧統一教会の行為が上記の要件に該当する理由として、教団が、長期間にわたって「継続的に」多数の人々に対し、自由な意思決定に制限を加え、正常な判断が妨げられる状態で献金や物品の購入をさせて多額の損害をこうむらせ、生活の平穏を妨げたことや、家族などにも財産的・精神的犠牲を与えて、やはり生活の平穏を害したとして、これらの献金や勧誘行為などは旧統一教会の業務ないし活動として行ったもので、『宗教法人世界平和統一家庭連合』の行為と評価できる」と指摘しました(NHK NEWS WEB 2023年10月12日)
旧統一教会の解散命令 請求を正式決定 今後の手続きは | NHK | 旧統一教会
つまり、教団の行為は、長年にわたる「継続性」があり、勧誘された本人の意思決定への働きかけや本人・家族への財産的・精神的損害という点で「悪質性」があり、これらの行為が教団の行為として行われたという「組織性」もある、として、宗教法人法の定める解散事由にあたる、としています。
裁判所がこの判断を認めるかどうかが問題で、旧統一教会は争う姿勢です。文科省による証拠集めは、質問権の行使に強制力がないため、被害者への聞き取りを重視したようです。
読売新聞によると、文科省は、「悪質性」については「当初から明白」と考えて、残る「継続性」と「組織性」の立証を重視したようです。「継続性」については、2009年に教団がいわゆるコンプライアンス宣言を出した後も被害が生じていた証拠を収集、「組織性」については、不当な献金集めをしたのが「信徒会」という別の組織だという教団の主張を突き崩して、実際は教団と信徒会が一体だという裁判例や証言等を集めたうえで、3要件に該当すると判断したとのことです(読売新聞2023年10月13日)。
元信者の夫婦、献金2億円で返金1500万円…合意迫る「信徒会」は「教団と一体」と文化庁 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
ただ、これで裁判所の判断をクリアできるとも限りません。問題は、民法の不法行為だけでも法律の要件を満たすのか、行政が定める上記の3要件を裁判所が認めるか、という点にもあるようです。
時事通信は、教団側の反論として、東京高裁がオウム真理教のケースで解散命令の要件について「刑法などの定める禁止規範、命令規範に違反する行為」などと示したこと等から民法の不法行為はあたらないと主張していること、更に、専門家の中には、組織性、悪質性、継続性の三つの要件は行政側が設定したものだが、「裁判官は法文に照らして判断することになる」という指摘もあること等を報じています(時事ドットコム2023年10月13日)。
解散可否、立証にハードル 厳しい要件、決定まで時間も―旧統一教会解散請求:時事ドットコム (jiji.com)
とは言え、宗教法人法の規定が各種宗教団体の圧力で宗教法人に甘く不十分な中で、政府は被害者救済や再発防止を重視して、何とか解散命令請求に至るような解釈をしようとして丁寧に証拠集めをした、という見方もできるでしょう。
実際、旧統一教会の被害対策弁護団は、政府の決定につき、「文化庁が、全国の被害者のヒアリングを行うなど統一教会による深刻な被害の実態に向き合い、丁寧な調査を積み重ねた結果に基づいたもので、当弁護団は、その取り組みを高く評価します」とコメントしています。
https://www.uchigai.net/aitiUC231012.pdf
一方、この弁護団も主張する通り、まだ被害救済と予防の対策が必要です。解散命令が出ても宗教法人以外の団体としての活動ができることや、裁判には時間がかかるので、その間に教団が財産を別団体に移してしまうこと等が考えられます。
宗教学者で東京大名誉教授の島薗進氏は、解散命令が出ても宗教としての法人格がなくなるだけで、団体は形を変えて存続するだろうし、「文科省の管轄から外れてしまう」という問題を指摘しています。そこで、「解散命令後に残る団体をウォッチする機関が必要だ」として、フランスで2002年に設置された「関係省庁セクト的逸脱行動に対する警戒・対策本部(ミビリュード)」のような機関の必要性を訴えています(朝日新聞2023年10月12日)。
解散請求は「当然だ」 島薗進さんが考える、団体を監視する公的機関:朝日新聞デジタル (asahi.com)
政治的にも、自民党と教団の関係はまだ完全に断ち切れていないという報道はいくらもありますし、法的にも政治的にもまだまだ対策が必要です。とは言え、安倍元総理の殺害事件を契機にクローズアップされた旧統一教会問題は、政府が教団の解散を求めるという決定を下すという大きな節目を迎えました。残る課題については、まずは今月20日からの臨時国会で野党が追及する姿勢です。